北海道の正月料理の定番ー飯寿司

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 北海道の正月料理の一つに、飯寿司(いずし)があります。飯寿司は、鮭やホッケ、ハタハタなどの魚・野菜・米などで作られた発酵食品。北海道の沿岸部では非常にポピュラーな郷土料理の一つです。

ホッケの飯寿司

目次

飯寿司とは

 飯寿司は、本州のなれ鮨から生まれたもので、日本最古のなれ寿司といえば近江の「ふな鮨」が有名です。ふな鮨というと、臭いのイメージが強いですが、飯寿司はふな鮨のような臭いやクセはほとんどありません。魚介類を塩とご飯で発酵させた北海道の郷土料理で、11月ごろから漬物樽などで各家庭で仕込み始め、正月のご馳走として食べる習慣があります。年末になるとスーパーなどにもたくさん並びますので、わざわざ家庭で漬け込むという人は、今では少数派なのかも知れません。

 飯寿司としてよく使われる魚は鮭であり、野菜はニンジン、ダイコン、キャベツなどが代表的です。米は硬めに炊かれたもので、麹などと混ぜて漬け込みます。飯寿司を漬け込む樽には重石が置かれ、水分を抜きつつ、40日ほどで完成します。

  使う野菜や魚、熟成期間などは地域や家庭によって違いがあり、それぞれの味わいがあります。

ホッケの飯寿司

  本来、飯寿司の米は食べるのが当たり前ですが、食べない派の人もいるようです。

利尻・礼文エリアでは飯寿司はホッケが多い⁈

カレーライスなどは、地元で手に入りやすい魚などが肉の代用品になることはよくあります。宗谷ではタコがよく獲れるため、タコカレー。積丹では鱒カレー。アワビがよく獲れるところではアワビカレーがあったり…。飯寿司も同じで、ホッケがよく獲れる利尻島、礼文島などでは飯寿司はホッケが多いようです。もちろん鮭もありますが、商品としてはホッケが多い印象です。最近はホッケが高級品であるため、ホッケの飯寿司は鮭の飯寿司よりも値段が高い傾向にあります。

  ちなみに他のエリアでは、飯寿司にサンマを入れる地域もあるようです。

飯寿司にまつわるどーでもいい思い出…

私が初めて鮭の飯寿司に出会ったのは、北海道に来てまだ間のない頃。当時私は大学に通っており、大学や、教授主催のイベントを手伝いに行くことも多かった。定期的に小さなイベントを開催していたある教授は、50歳半ばで独身だったが、長身と優しげな雰囲気で、学生やイベントを手伝う女性にも人気があった。特に、イベントをよく手伝いに来るイケイケねえさん(還暦以上だったかと思われる)は、教授をいたく気に入り、隙あらばと狙っているようだった。

 ある時、イベントから撤収する際、そのねえさんに「私を家まで送ってくださぁ〜い」と教授がお願いされたことがあった。ずうずうしいお願いに教授もギョッとしたらしかった。教授は2人きりになりたくなかったので、「それではこの生徒と一緒に送ります…」と私をダシに使ったのだ。まずはねえさんを送って、私を送る。教授は遠回りしてでも、先にねえさんを送るための進路を取った。

 だが、ねえさんの方も負けずに、「せっかくだから、ちょっと上がってくださいな」ときたもんだ。今にも取って食いそうなねえさんの雰囲気に、教授はすっかり怖気付いたようだった。「頼むから俺を置き去りにしないでくれ…」と生まれたての子鹿のような目で哀願されたら、まさか教授を置き去りにするわけにもいかない。ねえさんにとって、私は目の上のたんこぶだったろうが、仕方なく私もねえさんのマンションへ。

 その時、ねえさんが冷蔵庫から出してきたものが鮭の飯寿司だった。飯寿司といっても樽などで本格的に作られたものではなく、非常にインスタントなもので、タッパで適当に漬けられたような感じだった。米もほぼ生米。なんじゃこりゃ? というのが正直な感想だった。私は北海道に引っ越してきたばかりで、飯寿司というものを見たことも聞いたこともないし、あまりよく知らないイケイケねえさんが作ったものを食べることにもためらいがあった。加えて、イベントの食事やら酒やらで既に満腹、ねえさんの身の上話にも腹一杯であった。箸をつけただろうか? あまり記憶にない。

 いよいよお暇しようとしたとき「あなた、これ持っていきなさい」と、ねえさんから渡されたのが、袋に詰められた飯寿司だった。食べないよ、と思いながらも、「ありがとうございます」と腹黒い感じの返事をして、教授とともにサヨナラ〜。それ以降ねえさんとは会っていない。

 問題の飯寿司は、それから半月以上、冷蔵庫に放置されていた。どうしても食べたいとは思えなかったのだ。しかし、貧乏学生だった当時、カネはもちろん、食べるものは常になかった。本当に何も食べるものがなかったとき、仕方なくその飯寿司を食べた。さすがにヤバくないか? とも思ったが、発酵食品なので問題なしとしよう! しかしこれがなんと、びっくりするほど美味しかったのだ。ちょうど発酵が進んでいたからか、よほど腹が減っていたからか…。現在食べている飯寿司とは、ずいぶんスタイルが違ったような気がするが、それがねえさんの家に伝わる飯寿司だったのだろう。おかげさまで、飯寿司が美味しいことを教えてもらった。

 後で聞いたが、教授は飯寿司を食べなかったと言っていた。そんなわけで、ねえさんの恋が、実を結ばなかったのはもちろんである。高級マンションに寂しく住んでいた、あのねえさんは元気だろうか? 鮭の飯寿司を見たら、たまにそんなことを思う。

参考文献

「知っておきたい北海道食のキホン食べよう、作ろう。道民ごはん」萬谷利久子.メイツ出版.2015

 

 

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